「これは映像ですか?」~ 杉浦夫婦案件について-1

厄介なもので何かを作ったら、すぐに飽きてしまう。

趣味嗜好というものが目まぐるしく変転してしまい、自分のことなのに時折あきれ返るばかりであるが、なってしまうものはしょうがない。

撮影スタイルやレンズの選択、フォーカスの深/浅にはじまり、撮影した素材の色味や明暗の塩梅やトーン、編集のリズムやテンポなど、ちょっと前の状態の原型をとどめないほど、それは変転する。「物語」というものに対するスタンスなども、かなり揺れ動く。

今回作った映像は、基本的に三脚据え置きで、二本の映像ともにパンがたった1回づつ。それとスロモがそれぞれ1回数秒だけ。静謐なといえば言える、古風な映像になったはずだ。今回新しいオプション的機材が増えて重量が増したため、自在に動き回れなくなったこともあるが、上述のような嗜好の変化によるものが大きいのだろう。(御察しのようにこれを書いた今の時点は、この時の好みとはまた変わってしまっているので、違うもの作ろうと思ってしまっている…。)

ただし撮ったものすべてが撮影者の脳内の産物というわけではなく、被写体やロケ場所が持つ熱量や質量や造形、癖などのキャラクター、そして撮影する目的や内容によって必然的にこちらの態度というものは決定づけられてくるので、そいういう二つのベクトルが入り混じったものとして映像は結像していくはずである。

その昔アンセル・アダムズが書いていたように、機材の大小というものによってこちらの知覚はかなり変化するということもある。重量が増した大型のビデオカメラで撮るのと、軽量小型のミラーレスカメラで手持ちやジンバル主体で撮るのとでは明らかに同じものでもアウトプットが変わってくる。自分という存在より、環境と機材が方法を規定するということはあるかもしれない。

今回の被写体は旧知の陶芸家と人形作家の夫婦。彼らを撮影するのは、これで2~3回目であるはずだ。以前は撮影場所(彼らの工房)と彼らの内面、そして自分とが中々シンクロできず、なぜか上っ面のみだけなぞったような気がしていた。同じ場で同時に写真を撮っていた著名な写真家の濱田英明さんが撮ったものを見て、「うわあ負けたなあ。これには気づかなかったなあ」との印象を持った。それは縦構図の写真であって、絶対映像には撮れない類の瞬間を収めた写真であった。我を張るわけではないけれど、逆に写真には絶対撮れない映像というものも確実にある。自分は写真はトーシロにしろ(写真学科に在籍はしていたにせよ)、それを撮ることは撮るのでその双方があることを知っているし(むしろそのギャップにずっと悩んできたということもあるのだし)、音も含めて映像でしか表現できない流れというものは確実にある。写真家脳になっている時は、映像に嫉妬すら覚えることすらあるし、その逆もある。ばいすばーさ。

ウンチクが長くなったが、この撮影は音も割とこだわった。これは今夏最大の仕事のために買った機材の予行練習もかねてであったが、カメラ側にいつものガンマイクではなく、 オーストラリアはRode社のVideostereomic Xというごついマイクを付けた。ヘッドフォンをつけた環境下では今までとの差異がすさまじく際立つ。今まで聴こえなかった音がそこに「ある」感じがする。

ずっとピンマイクというものがどことなく嫌いであったので随分と使ってこなかったが、インタビュー系の仕事が増えてきて、やはりいるよなーと諦めて買ったZoomのF1という録音機とレシーバーが一体になった小型の機材でインタビューは収録、これまでにないクリアな音になったと思う。(ちなみに産土の僕のナレーションはピンマイクで収録した)

色味は、ソニーの色味をArriの色味へと変えるLUT(色のプリセット)を見つけてそれをベースに作っていった。不思議なものでこのLUTを今編集して要る映画用のフッテージに使ってもバカみたいな感じになる。用途用途で全然変わるということなのだろう。だがこれにはドンピシャではまったと思う。広告とドキュメンタリー映画の中間みたいな質感、そしてどこまでもノイズの少ないクリーンで、無茶で突飛なカラコレをできるだけ排したものをイメージしていたが、かなりその通りになったのではないか。

ちょっと前までやっていた建築家のインタビューシリーズや、アイドルの甲子園応援映像もそれぞれLUTからなにから全部違っていて、後者の方はアイドルを可愛く見せるために初めて自作したどである。とにかく悩みまくるので、時間がどんどんかかる。限界と規定される日時までとにかく悩むのと試行錯誤を繰り返す。年々その傾向が強くなってきた。だが最初は、まったくといっていいほど悩むことはなく、パッと撮って、パッパと繋ぐみたいなことを正解だと思ってやってきたように思う。だが、脳裏にはあることがこびりついてた。

(つづく)

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