京都への旅(上映2日で3回)。
November 11, 2015神山から市内に降り55線のバイパス沿いで今回同行する田中クレアさんを拾いそこから約3時間。こんなもので着いてしまうのかと唖然とするほど都は徳島から近かった。徳島ICから繋がった高速に始めて乗ったが、なんとも快適になったものである。
記憶をたどれば、京都市内へとやってきたのは、まだイタイ気な高校生時の修学旅行にまで遡ってしまう。日本中を旅しているようによく思われてはいるが、「辺境」でない所とは縁がないのか、意外とこんなもんである。やはり田舎者丸出し。「都大路」にやってきた感は拭えない。
今回来訪することになったのは、昔のスタッフの縁で映画を見てくれた立命館大の高嶋先生が、産業社会学部創立50周年記念イベントの一つとして呼んでくれたからである。いつも思うが、大学を3日で中退してしまった高卒の自分がこういうところに呼ばれるとは夢にも思わなかった。同じくカナダでの高校時代はモヒカンだったというクレアさんとともに優秀な学生たちを前にして偉そうに話しているのがやや不思議な気がする。
上映会後の質疑…これまでのそれとはちょっと毛色が違い、学校の先生によるマニアックかつ「それ聞く?笑」といった質問が続いたことが印象に残る。不覚にして、産土という至極やっかいなプロジェクトを始めてしまったが、一人では続けることも、問いを起こし続けることも至難である。が、色々な層の人々と触れて刺激をもらい、作品を作り続けるためのヒントや燃料をもらうことで、また明日も歩けるような気がするのである。
日が明けて昼前に冬への序曲的灰色の雨が降る中、高速を綾部へと向かう。綾部は産土-壊-のロケで福井へと往く際に通り過ぎたことがあるだけである。市内に入り、グンゼの工場(ここで創業とのこと)やいくつかの企業の工場が岡の上に点在している間を通ってから「お茶処」という看板を過ぎ、茶畑の間を通っていくと会場となる旧廃校で現在はNPO法人里山ねっと・あやべが運営されている施設にへと辿り着く。
僕が立命館大に往くことを知ったNPOの立川さんが呼んでくれ、二日連続の上映となった。
着いてしばくしてから一回目の上映が終わり、3人のお客さんと雑談のようなトーク。次いで二回目の上映が始まる。さすがに自分の映画といつつ二日連続で見るのはちょっと気がひけるというか、直したいところが目についてしまいイヤなので外で失敬する。上映後、若手林業家の方と対談をお願いします、ということでお隣り福知山で林業兼工務店をされている伊東昌紀さんと対談することになった。
僕がメインと聞いていたが、地元の林業家との対談ということで、僕が聞き役に回るしかないような気がしていたが、やはりそうなる。京都北部の林業の現状や可能性を訊く。細かい話は思い出せないが、伊東さんが「みんながダメだと言っているから逆にチャンスがある」と言っていたのが印象的だった。移住者でいきなり地域に入り林業をやるのは難しいこと、林業は死と直結しているが生きている実感があること。そして外材の輸入が必ずしも悪ではなく、外材があったからこそ林業の需要が担保出来たといった新しいお話も伺った。山仕事は孤独なので、みなもっと話したいと思っているとも語られた。今後取材してみたいと思った。上映後美味しいごはんをご馳走になる。料理は若手猟師の清水さんが自ら仕留め、自ら料理したもの。彼のような人材に会えたのも収穫だった。
次の日、帰るだけだったが、立川さんに誘ってもらい5世帯4人しか住んでいないという綾部市街地から約40分の山奥にある古屋という集落を訪ねた。山向こうはもう福井県の大飯である。ここの風景は、ちょうど福島から東京に電線が伸びているそれとシンクロする。住人の構成は、60代の地区会長の男性渡辺さんの他はみなおばあさんで、3人は80代が一人、90代が二人となっている。
ここにトチが群生する森があった。軽トラに乗り、他の数人の方と渡辺さんに案内してもらう。入り口にある明智光秀由来という仏像に礼をして、森に入る。このあたりでは谷を「タン」と言い、原を「ワラ」と呼ぶらしい。今見つかっているだけで700本以上のトチの木があり、奥山まで探せば1000本は超えるだろうということである。1000年を越える聖なるトチの前で渡辺さんとパチリ。「モーモーさんの泉」という湧き水があり、その前で「モーモーさん、水をいただきます」と言って獣のように水を飲んだのが印象的だった。風邪ッピキで思いの外ハードな山歩きだったため、最後は膝が笑っていたが、いい経験になった。
古屋の集会場に帰ると、おばあさんらがトチのぜんざいを用意してくれていた。ありがたくそれを食べ、促されるまま記帳するとそこに野本寛一先生の名前が。どこにいっても足跡がある。
「ぜひ綾部版産土を」と何度も言われた。僕の意思だけではできることではないが、またこようと思った。